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スターリンは悪人なのか?~『スターリン「非道の独裁者」の実像 』感想~

 最近、共産主義という分野に興味を持ちまして共産主義関連の新書および古典を読んでおります。書店で、『スターリン「非道の独裁者」の実像 』という本を見つけまして、独裁者とみなされがちなスターリンに関して体系的な知見を得ることが出来ると思い購入し、読破したので書評を書いていきます。

スターリン - 「非道の独裁者」の実像 (中公新書)

スターリン - 「非道の独裁者」の実像 (中公新書)

 

 

お品書き

 

1. 本書の概要~構成・対象層・得られる知見~

ア.本書の構成

本書は8章+エピローグ相当の終章で構成されてますが、イメージとしてはこんな感じでしょうか。

 第1章 ゴリの少年:生い立ちおよび少年時代(詩なども書かれる)
第2章 カフカースの革命家:ゴリの教会学校を卒業後、神学校に入学し退学して革命活動に関わるまで
第3章 コーバからスターリンへ:革命活動に従事→逮捕→流刑→逃亡を繰り返す様子とおよび「スターリン(鋼鉄の人)」と名乗る経緯
第4章 ロシアの革命と内戦:ロシア革命およびその後の内戦におけるスターリン
第5章 権力闘争の勝者:農民を犠牲にして、権力を握っていくまで
第6章 最高指導者:「5か年計画」とさらなる農民の犠牲,大粛清,第2次世界大戦前夜
第7章 ヒトラーとの戦い:第2次世界大戦におけるスターリン(特に対ドイツ)
第8章 アメリカとの戦い:共産主義圏の拡大,晩年のスターリンの衰え
終章 歴史的評価をめぐって:フルシチョフスターリン批判およびその後のロシアでのスターリンをめぐる歴史的評価の変化

 第3章まではスターリン個人の生い立ちが中心で、第4章~8章はスターリンに焦点を絞ったソ連史という態で読むことが出来ました。

イ.読むべき対象層

スターリンを歴史の授業で習ったものの、「悪人」「独裁者」という印象から抜け出せない社会人および専門外の学生→特に読んでほしい!

◎高校の歴史の授業に辟易している高校生

共産主義およびソ連・ロシア史に興味のある人

特に、スターリンを「悪人」「独裁者」と決めつけている方には是非読んでほしいと言えますね。

ウ.得られる知見

スターリンという1個人に焦点を当てた、ソ連

◎もちろん、スターリンという人物を縦軸から見た知見

2.感想および考察

ア.神話化されたスターリンの少年時代(第1章)

 第1章「ゴリの青年」では、ゴリに生まれ育ったスターリン(幼少期はソソと名乗っていました,以後ソソと書きます)の少年時代が、ソ連時代の最高権力者としての幼少期として語られている内容が最高権力者として神話化されているということを語っています。

例えば、イレマシヴィリというソソの幼友達が語る回想によると、

「理由もなく父親からひどい殴打を受けたことで、少年は父親と同じような、荒々しく、無慈悲な人間になった。力があることで、また年長であることで他人に君臨しようとするものは皆父親と似ているように彼には思えた。彼は何らかの形で彼を支配したすべてのものに対して、復讐心の募らせた。若い時分から、スターリンにとって復讐を成し遂げることが全ての力を傾注する目的となった」p9-10

確かに、このような回想からはソソは成るべくして最高権力者になったんだという印象を受けますね。スターリンに限らず、政治家、特に独裁者の幼少期は神話化されやすいですが。しかし、旧ソ連地域の研究者であるニコライ・カプシェンコは当時(十九世紀末以降)のロシア帝国の歴史的な経緯を見れば、彼と類似した幼少期を送った少年は決して珍しくなく、幼少期の経験だけでソソが最高権力者スターリンの人格を形成しているという研究者を批判しております。

 

また、ソソの母親は ケケという名ですが、本書ではソソとケケの関係が革命運動に従事するにつれて希薄になったという一般的な見解に異を唱えております。大人になっても母親と手紙を交わしていたことが、『家族の抱擁の中のヨシフ・スターリン』にて明らかになったとされております。本書より1つだけ引用しますと、

「お母さん、手紙は受け取った。健康で元気でいて。近いうちに会えるよ。長生きしておくれ。キスを送ります。ナージャ(二人目の妻のナデェージュダ・アリュー・エヴアのことー引用者)からもよろしくとのこと。あなたのソソより」(一九二三年二月二六日付)p15

といった具合です。この手紙の印象としては、マザコンとまでは行かなくとも普通に親思いの息子で、のちに身内すら信用できず『大粛清』で数多くの処刑をくり返す人物と同一人物とは思えません。確かにこのような優しそうな側面を見せると、国民の前で見せる「鋼鉄の人」というイメージが崩れて神格化は難しそうですね。『家族の抱擁の中のヨシフ・スターリン』の公刊がソ連崩壊後一九九三年であることから、意図的にイメージを崩す資料を公開するわけには行かなかったのでしょう。

 

2.スターリンは悪人or偉大な指導者なのか?(終章)

 スターリンの死後はフルシチョフ体制となりますが、体制づくりの会議にはスターリン体制で排斥されたモトロフが加わるなどスターリンの体制から脱却する動きを見せます。また、強制収容所や刑務所などに収容された人々で刑罰が軽い政治犯等を恩釈したり、コルホーズ(集団農場)の農民の農作物の買い上げ価格引き上げなどといった行き過ぎた抑圧政策について見直すなど明らかに脱スターリン路線をフルシチョフ体制では取っていました。極めつけに、3年後の一九五六年二月には「個人崇拝とその帰結」と題する大粛清や第2次世界大戦での失敗などに関するスターリン批判を行いました。少なくともフルシチョフ体制では、スターリンは悪人という評価でした。それでも、ドイツのナチススターリンの存在抹消までは行かないのは、共産党という体制そのものは変わらないからでしょうか。

 20年以上スターリンの評価は西側諸国では絶対悪という一方、ソ連内では複雑な葛藤が有るという状況でした。

 

 1980年代のゴルバチョフ体制で、西側諸国はフルシチョフ体制以上にスターリン批判を行うかと期待します。しかし、ゴルバチョフは演説で以下のようにスターリン擁護派の見解を支持する形となります。

そして、冷静な目で歴史を見、国内的・国際的現実の総体を考慮に入れるなら、こう自問せざるをえない。当時の条件下で、党が打ち出した方針と違う方針を選ぶことが果たして可能だったかどうか、と。もしわれわれが歴史主義、生活の真実の立場にとどまりたいと思うなら、答えは1つしかありえない。不可能だったということである p292

 スターリン弾劾の声にも応え、演説ではスターリンおよび側近が取った弾圧は許さないと一応付け加えましたが、スターリンの功績を認める方がメインでした。政治家としてのバランス感覚を取ったつもりが、八方美人に終わった印象でしょうか。

 

ソ連崩壊後も、スターリン批判派と擁護派に分かれており、単純な悪人と見なせない状態が続いています。

 

結論:「非道の独裁者」の実像 いう副題に嘘偽りなし

スターリンは教科書では、ソ連の支配者で独裁者という印象でしょうが、生い立ちや後世の評価を見ると単純に評価できないと感じます。1000円以下でかつ新書サイズなので、通勤・通学などの電車で読めるので是非どうぞ!

決して単純な悪人ではない、もっと独裁者は今も昔もいる、私はスターリンをそう評価します。

 

 (3084字)