家で取っている新聞で貧困問題に関する連載記事があり、「高学歴プア」という副題の記事を読みました(*1)。
連載記事では、大学で人文地理学を専攻した男性が東京大学の修士まで出たにも関わらず正規雇用の大学教員になれないというだそうです。生活としては、非常勤講師を引き受けつつ月収14万円という生活を送っているとのことです。
本人曰く「博士号」を取っていれば今のような生活にならなかったらしいそうなので、確かにこの男性は、副題通り「高学歴プア」というのが相応しいでしょう。人文系で修士号取るというのがリスキーなことくらい、予想しろとは思いますが。
そして、身近にも「高学歴プア」の予備軍で思い当たる人が、研究室の先輩で1人いたので書いていきたいと思います。
お品書き
1.修士の先輩は「高学歴プア」予備軍であった
私は大学3年生の夏休みに研究室に配属され、卒業研究に励むメンバーと一緒に教員の指導を受けつつ卒業論文の完成に向け研究を進めてきました。
私の研究室では、提示されたテーマを各自が選び、そのテーマに関連した先輩より引継ぎを受けることになっており、私も例外なく先輩より引継ぎを受けることになっていました。よって、引継ぎを受けた修士2年の先輩(以下先輩Aとします)と接点がありました。
先輩Aとは、研究の引継ぎのためにコミュニケーションをその先輩と取る機会がありましたがコミュニケーションに困難を極めました。具体的には話が要領を得ないのでこちらから聞き直す、先輩Aから話さないのでこちらから聞く話を聞く必要がありました(最も私はこういった経験に長けていたので乗り切れましたが)。そして話が要領を得ないこと以上に、先輩Aがプライベートの話を一切しないというのが厳しいです。人となりが分からないというのは友人関係のみならず、職場などで立ち回るのも厳しいです(私の教訓もあります)。
先輩Aに苛立ちを感じていたのは私だけではないらしく、教員にまで『(Aを)同じ土俵に立たせてはダメだ』という言われていた噂も聞きました。更に言うと、修士の本分である『学問』に対しても、ゼミナール中に全く質問しないばかりか居眠りをするなど『学問』への熱意の疑わしさを学部卒という立場ながら感じませんでした。自慢ではありませんが、私は質問をしたものです。
先輩Aとは卒業後には、あまり接点は無かったです。数少ない接点として、卒業年の秋ごろに先輩Aと学内で会う機会がありました。話を伺ったところ、必要な書類(おそらく就職試験のための卒業証明書)を取りに来るために来たそうです。なので、少なくても卒業後半年以上は就職が決まっていないというのは確かです。あれから1年以上経ったが未だに先輩Aが就職しているイメージが湧きません。果たして、先輩Aは『修士』相応の能力を持っていたのでしょうか? 無職の私が言うのもお前が言うなという感じですが、とても修士相当の能力を持っているように私は感じませんでしたね。
2.では、修士の定義は?
ここで、大学院の修士課程の目的について文部科学省の大学院設置基準を載せておきます
(修士課程)
第三条 修士課程は、広い視野に立つて精深な学識を授け、専攻分野における研究能力又はこれに加えて高度の専門性が求められる職業を担うための卓越した能力を培うことを目的とする。大学院設置基準 引用 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S49/S49F03501000028.html 2016年4月22日閲覧
要するに、文部科学省(≒国家)は専門性を生かせる職業に就くための訓練課程として大学院修士課程を考えているのです。先輩Aが専門性を生かせるようには失礼ながら思えませんが。
冒頭の記事では、大学院の在籍者(但し修士,博士)を合わせたものであるが
一九九〇年に九万二百三十八人だった大学院の在籍者は、二〇〇〇年に二十万五千三百十一人に倍増。初めて二十万人を突破し、その後も高水準で推移している。国の審議会が大学院の学生数を「二倍」にするとの方針を打ち出し、国公立、私立の各大学が定員を増やした結果だ。 (*1)
と20年間で倍増し横ばいであることが書かれており、定員が増えた上内部進学なら倍率も高くないのでしょう。人数が増えると優秀な院生も増える一方、修士としての資質に欠ける人もいるのでしょう。
3.同期も「高学歴プア」予備軍なのか?
そして、就職説明会で偶然大学院に行った大学の同期と出会いました。その同期も未だに就職が決まらないらしく、「何がやりたいか分からない」と言っておりました。学部生の時も就職が決まらず院に行ったそうで、このままでは先輩A同様に「高学歴プア」予備軍になってもおかしくありません。しかも研究も大して進んでないらしく、いいやつではありますが修士としての資質があるのか疑問です(説明会の日も研究室に行かず家から来たそうである)。
4.就職できない人の特徴は何も身についてない人である
就職できない人の特徴について以前読んだ本で述べられていたので紹介します。
諸星:(略) それと、就職できなかった学生は、往々にして学生時代、勉強を含めしっかりと自分に付加価値をつけることを怠った人間でしょう。勉強してないか、もしくは、企業側がこいつは魅力的だなと思わせる技術なり話術なり、コミュニケーション能力なり、何かアピールするものをしっかり身に付けていない者が就職率を何パーセントか引き下げている。
尾木:その能力を身に付ける努力をしたか、しなかったか、あるいは、そういう努力をしなければならないことに気が付いたか、気がつかなかったか、その落差は、本当にびっくりするほど大きいんですよ。そして、それは、大学側にとっては、気づかせることができたか、できなかったかということなんですが、実は、大学や学部によっても大きな落差があることを痛感してます。旧態依然の教育をしている大学や学部は、完全に取り残されますね。
(*2)
対談では主に学部学生の話をしていますが、修士にも丸々当てはまります。先輩Aは「何かアピールするものをしっかり身に付けていない者」であったようです。そして、そのような学生が「高学歴プア」予備軍となり、やがて本当に「高学歴プア」になるのでしょう。先輩Aや同期も「高学歴プア」予備軍に違いありません。
そして、このような「高学歴プア」が増えると親から「大学?そんな変なとこ行かずに就職しろ」と再び言われる時代になるでしょう。
ホントのこと言ったら物議を醸すというか、佐々木俊尚さんに言わせれば「堀江さんは身も蓋もない」って話になるんだろうけど、まあぶっちゃけ100%ではないけど、ほとんどの学生はモラトリアム&就職予備校としてしか大学を利用してないんで、東大みたいに国立で学費も安くていい具合に日本のマジョリティを占めるマイルドヤンキー達にはその実力の何倍何十倍もの価値を認められている大学はともかく、無名大学とかはっきりいって行く意味ないよ。受験して合格して学生証だけもらって中退するのが一番だ。
(中略)
追記:さらに大学院のシステムも微妙。結局本格的な研究は大学院に行ってからなんだけど2,3年しか継続しないので研究室でのノウハウの継承が難しい、というか困難であるのが現状。だから本来は学部の途中から5年くらいは研究し続け、教授が中心となって設立した研究開発型企業にそのまま移って研究を続けるなりの流れが必要だろう。。
5.まとめ
大学とかその上の大学院とか行っても、就職できるとは限らないな~というのが正直な感想です。そうなると、教育って何のために行われるのか疑問で、遊びほうけていた方が、コミュニケーション能力とやらで就職できそうです。
参考記事:行く価値の無い学部~国が給付型奨学金導入らしいが~
(3400字)
*1 第3部・非正規スパイラル (4)高学歴プア:新貧乏物語:中日新聞(CHUNICHI Web) 2016年4月19日
*2 「危機の大学論―日本の大学に未来はあるか?」尾木直樹,諸星裕(著)
第5章大学から問う日本の未来 p166 角川oneテーマ21