2017年の高校入試の国語の題材にもなった、武田綾乃さんのデビュー作『今日、きみと息をする。』を読了しましたので、感想書いていきます。武田さんは、アニメ化もされた『響け!ユーフォニアム!!』が有名で自分も途中まで感想を書いていました。。
『響け!ユーフォニアム!!』シリーズの立華編前編の感想記事を執筆済み:「立華高校マーチングバンドへようこそ」感想~佐々木梓とトロンボーンと瀬崎未来の物語~
2017年 3月10日リライト
お品書き
1.初読した感想
読書メータより引用しました。
3人の主人公が同じシーンをそれぞれの目線からというのは良かった。良かったシーンとしては、けいとの親の描写は狂気を感じた。但し、大きな事件も起こらず3人の関係も特に進展があるように見えない結末は賛否あり。ユーフォと比べて粗削りさは否めなかったですね。
この話は、メインの登場人物3人が同じような場面をそれぞれの立場から描いているシーンが目立ちます。それぞれの立場から描かれることで、3人の感情の違いが分かりやすい反面、場面展開が狭くなるというのは気になりました。
メイン3人の登場人物の関係は
以下のように3人が、一方的に好意を抱いている三角関係で、矢印の反対側は行為どころか嫌っているような描写が散見されるという一方通行的なものです。この関係性は、本編中では特には変化しませんでした。泰斗はけいとを好いていますが、けいとが泰斗に好意を抱くようになったり、逆に物語開始時より嫌悪感が高まったということもありません。とにかく現状維持です。
物語の構成は、01から04までの4部構成で、01から03ではけいと,夏美,泰斗視点で同じ場面の視点違い&家庭の様子が描かれてラストに3人が所属する顧問のみどり先生から「合同制作」のメールから届くという展開です。04では、けいと視点で共同制作をする3人のやり取りが描かれています。
何度も書くようですが、衝撃の展開やユーフォのように大会での緊張感は皆無で平坦な日常が始終続くので、カタルシスなどを期待する人にはあまり向かない作品です。ただ、ユーフォを読んでハマった方ならば武田綾乃のデビュー作の感じと力量の変化を見るために読んで損は無いでしょう。ただ、どこの本屋でも手に入るユーフォと異なり発行部数が少ないので大型書店に行くorAmazonでの注文を勧めます。
2.登場人物総評
ア.宮澤けいと~宮澤家のニヒリズム~
宮澤けいとは、両親は不在で16歳年上の姉である宮澤ひろこに育てられております。武田作品では、父親が不在という登場人物として後述する沖泰斗や「響け!ユーフォニアムシリーズ」の田中あすかや佐々木梓など数多く登場しますが、両親ともに不在という人物は宮沢けいとだけです。
両親が離婚することで絶縁したのはけいとが12歳の時です。
武田綾乃作品の特徴としては、Mharayaruo氏によるブログ『時の魔法とclosing』による定義では
1.複雑にこじれた人間関係
2.10代の少女の感性のリアルさ
3.同性の友人への執着
4.無自覚の残酷な発言
5.親、保護者へのニヒリズム
という特徴があります。けいとの両親の離婚シーンにおいては、「5.親、保護者へのニヒリズム」が剥き出しになって表れております。
特にひろこの次の一言は、「響け!ユーフォニアムシリーズ」においては絶対に描写することはできないでしょう。
「貴方にとって子供なんて邪魔なだけでしょう?遊びでセックスしたらうっかりできちゃったですしね。私を煩わしいと思うのも仕方ないです」
p37
やあ、酷い。まさに、ニヒリズムの極致です。
さらに、
「収入だって父さんより私の方が上ですし、養育費も要りません。どうぞ新しい奥さんに遣ってあげてください。端金なんていらないです」p37
という発言も飛び出し、姉28歳というこの時までなぜ一緒に生活していたのか驚きとしか言いようがないです。
余談ですが、ユーフォでは流石にこのような暗いというか虚無感しかない背景を持つ登場人物は出せなかったでしょう。特に梓がこのような背景の家庭なら、非ずんだ性格が後編で更生することなくバッドエンド(退部)で終了していたでしょう。武田作品は、後発のユーフォの初期案が京都ダメ金という構想であったり、「石黒くんに春は来ない」の結末(石黒君始め一部生徒にとっては)バッドエンドということから梓もバッドエンドで終了はあり得ますね。
響け!ユーフォニアムは、プロットの段階では府大会ダメ金(カラ金)の予定だったらしい。人間関係の泥沼感や、大団円のように見えて随所に残る危うさを見ると、本編も立華編もハッピーエンドではあるけど、武田先生の本来の作風は後味悪い系なんだろうなってのが伝わってくる。
— 無味P (@mumimushu17) 2017年2月16日
本作 『今日、きみと息をする。』はバッドエンドともハッピーエンドともつかない終わり方ですが、たいとの進路は少し気がかりです。
(2217字)