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北朝鮮の明日はどこへ~『父・金正恩と私』金正男独占告白感想~

 連日報道されている金正男暗殺事件ですが、これについて論じたいと思ったので金正男という人物を勉強したくなり、「『父・金正恩と私』金正男独占告白」(文芸春秋)を購入し読破したので感想というか書評を書いていきます。

 

最近では、マスコミが金正男事件ばかり報道し、森友学園と安倍夫妻の関係や南スーダン派遣事件などの国内の重大ニュースが報じられてないという批判がありますが、本書からこれらの事件と関連付けて北朝鮮と現政権(特に現総理)との共通点を後日論じる予定です。

父・金正日と私 金正男独占告白 (文春文庫)

父・金正日と私 金正男独占告白 (文春文庫)

 

 

 お品書き

 1.本書の概要

本書は、ジャーナリストの五味洋治氏が北朝鮮の前指導者金正日の長男である金正男と接触し、メール交換やマカオでのインタビューの記録が描かれた一冊です。

構成としては、

まえがき 「放浪のプリンス」を追った五年
序章 金正日の「血と骨
第一章 北京での邂逅
第二章 百五十通のメール対話
第三章 マカオでの独占インタビュー
第四章 祖国からの警告
第五章 プリンスはなぜ追放されたのか?
終章 金正男平壌に帰る日

 という構成で、第1章(2004年)に北京首都国際空港に姿を現した金正男氏を記者である著者が取材の一環で出会ってから、メール交換などで彼の生活や金一家の件、北朝鮮の実情や将来などを聞き出します。それがきっかけで、第3章で五味氏は金正男氏とマカオで独占インタビューに成功します。その後も、メールでの交流や北京での再会を重ねるも…

本書のメールのやり取りは、第5章のラストで金正日氏が亡くなる直後で途切れております。最後のやり取りがきっかけとなり、金正男が暗殺される引き金になったという批判が見受けられますが、これについては最後の述べます。

 

2.本書の感想

なぜ、「3代世襲」なのか

10年11月3日 (中略)

「三大世襲」というのは、過去法権王朝時代を除いて前例のないことで、常識的に社会主義に符合することも無いということは、世人が共感する現実です。

また、三代世襲に最も否定的であった父親が、今日これを押しきぅたのは、それくらいの内部的要因があったと信じています。個人的考えですが、いわゆる「白頭の血統」だけを信じて従うのに慣れた北朝鮮住民たちに、その血統で無い後継者が登場する場合、面倒なこともあったことだと考えられます

第2章 150通のメール対話 p76

 と金正男氏は答えております。実際のところは、半分正しくて半分間違いであったと私は思います。

まず、「白頭の血統」という用語の説明から行くと

「白頭の血統」とは、故金日成主席や金総書記の直系家族という意味。p110

 という定義になります。確かに、金正男氏は「白頭の血統」に該当するので、後継者として中国政府に保護されていたという報道も嘘ではないでしょう。

 

ところが。金正恩氏に関しては、「白頭の血統」ではないとされております。

ある脱北者は、「正恩氏は、白頭の血統ではなく『富士山の血統』だ」と揶揄する。金正恩氏が「白頭の血統」の継承者であることを強調すればするほど、在日朝鮮人である高ヨンヒ氏が実母であることがアキレス腱となりかねないのだ。

金正恩氏を悩ます「大阪の血脈」と「最愛の妹」の危機 2017年2月23日閲覧

 母親が在日朝鮮人であることで、金正恩氏は「富士山の血統」というのです。もちろん、独裁者である金正恩氏が一々公言するわけもないです。言論の自由などない北朝鮮で、住民でそのようなことを噂するものは即逮捕から強制収容所でしょう。

 

とはいえ金正男氏の話が、本当に北朝鮮の指導者の求心力に繋がっているキッカケの1つならば、経済制裁と同時に金正恩氏が「白頭の血統」では無く、「富士山の血統」であるということを諸外国がプロバガンダとして呼びかければ、体制崩壊に1役買うのでは無いのかと私は考えます。

 

3.エピローグ:出版と暗殺の関係

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本書のAmazonレビューは2月23日現在で、5点満点中2.8と芳しくなく、1点が最多となっております。1点のほぼ全てが、画像のように本書の内容というより「金正男が暗殺されたのは、本書が出版されたせいだ!倫理観を疑う!」というジャーナリズムの姿勢を問う批判です。他の批判に関しては、Amazonサイトに掲載されております。

 

普段ですと、Amazonレビューの低評価は的外れな批判が多く読んでも無いのに著者の印象論等で批判が多いので、バッサリ切り捨てております。ただし、今回の低評価の批判は全くの的外れとは言えないので少し取り上げたいと思います。

 

本書終盤で金正日氏が死去した後の金正男氏と五味氏のやり取りを掲載します

11年12月29日

金正男さま

(略) ところで私はこの時期に、あなたの考えをまとめて発表しようと思っています。マカオのインタビューの詳しい内容にメールの内容を含めたものです。今こそ、北朝鮮の矛盾を訴える時期と考えました。ご理解ください。(略)

 

と、五味氏は本として出版をしたいと金正男氏にメールを送るも

11年12月31日

北朝鮮では死去後100日は喪に服する期間とされております。この時期に、何か新しいニュースが出ると、私の立場が不利になります。ご理解をお願いします。北朝鮮の政権が私に危険をもたらす可能性もあります。

 

と出版を延期してくれと願います。私も本書を読んでいるので、著者のことを批判する資格は無いのでしょうが、結果的に暗殺の引き金になってしまったのなら残念と言わざるを得ません。とはいえ内容自体が劣悪という訳ではなく、むしろ1次情報を集めた価値の高い本なので、いまさら出版差し止め等の問題が怒れば反対しますが。

 

(2397字)