夕食の手伝いで皿を間違えただけで親に「ごめん」と謝る私が、「もう、謝るな。」という帯に惹かれて「謝罪大国ニッポン」を購入しました。「きっと日本人は謝りすぎるけど、そういうのは良くない」といった趣旨の本だろうと期待しておりました。
しかしながら、この本はそんな内容ではありませんでした。この本を要約すると「何か失敗をして謝罪するときには、タイミングや方法に関して日本独自の「謝罪道」があるからそれを守ってね。守らないと、失敗以上に損しますよ。」というものです。という訳で、書評をしていきたいと思います。
お品書き
1.著者中川淳一郎のプロフィール紹介
中川 淳一郎
編集者、PRプランナー、ライター
1973年生まれ。東京都立川市出身。大学卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターとなり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々なネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、当時主流だったネット礼賛主義を真っ向から否定しベストセラーとなった『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』、『内定童貞』(ともに星海社新書)など。無遠慮だが本質を突いた鋭い物言いに定評がある。
本書も無遠慮ですが本質を突いた鋭い物言いです。中川淳一郎ファン必見です。
2.脱「謝り下手」へのハウツー本です
社会人ですと仕事で大なり小なり謝罪の経験はあるでしょう。その時に、謝ることで余計に相手の怒りをかってしまう「謝り下手」な人もいると思います。本書はそのような「謝り下手」な人が、謝罪で余計な相手の怒りを買うことなく何なら評価をアップさせるためのハウツー本としておススメです。
もちろん社会人に限らず学生の方でも親や先生に謝る際に余計に怒らせてしまう人には大いにおススメです。野口英世一枚とリーズナブルな価格で失敗しても怒られない人にチェンジできます。
3.「謝罪道」という暗黙のルール
筆者の中川 淳一郎氏が以下のように日本には謝罪の様式である「謝罪道」があると指摘します。
茶道、武道、柔道、剣道など数々の「道」が日本には存在するが、最近では「謝罪道」といったものまであるのではないだろうか。どう考えても、謝罪という行為が本来の目的から逸脱して様式美や何らかのルーティンのようになっているのである。茶道であれば「茶碗を3回まわす」だったり、剣道であれば「蹲踞(そんきょ)の姿勢(*1)」があったりする。謝罪道の場合は、「この度は多くの方にご心配とご迷惑をおかけしたことををお詫び申し上げます」というテンプレートを述べた上で、中年男性4人が一斉に頭を下げる。そこにフラッシュがパシャパシャと焚かれる。これで「謝罪道3段」の免許を獲得―といったところだろう。
引用:「謝罪大国ニッポン」はじめに p10-11
筆者はそのような日本の「謝罪道」ができていないと、謝罪によって世間に(謝罪する以前より)バッシングされることがあると述べております。その最悪の例として、日本マクドナルド社長のサラ・カサノバ氏のケースに触れており謝罪会見を「お辞儀しない」,「仏頂面」と酷評しています。謝罪でマイナスイメージとなった人物に関して他にもベッキーや「船場吉兆」の例に触れていますが、良い謝罪例として山一証券の最後の代表取締役社長だった野澤正平を取り上げております。
野澤氏は社長就任3ヶ月で、前の経営者の尻拭いをする形で謝罪会見に臨んだ。ここで、同氏は号泣しながらクシャクシャな顔でこう絶叫した。
「みんな私ら(経営陣)が悪いんであって、社員は悪くありませんから!どうか社員に応援をしてやってください。優秀な社員がたくさんいます、よろしくお願い申し上げます、私達が悪いんです。社員は悪くございません…!」
引用:「謝罪大国ニッポン」第1章悪い謝罪、良い謝罪 p62-63
ここで、筆者は同じように号泣しながら謝罪会見をした元兵庫県議野々村竜太郎氏とは比べてはならないと言及しております。野々村氏は謝罪会見で世間の「笑いもの」となりましたがその分析も本書で言及されています。是非読んで「自分のアタマで考えてください」。
*1:蹲踞(そんきょ)という姿勢を知ってますか。
相撲や剣道で、試合をする相手と向かい合うときの"礼”の姿勢です。
立ち膝で、上体をますぐに正した姿勢。しゃ“がみ姿勢の一種です。引用(2016年8月30日閲覧)
4.謝るのは、恥ではない
本書は上の見出しのまとめで締めくくられております。「謝罪」は決して恥ずかしい事ではなくやるなら「謝罪道」に沿って適切にやろうと言うのが本書の結論です。謝罪はむしろチャンスにもなり得ると述べております。
謝ることは別に恥ではないのだ。謝ることによってコミュニケーションが生まれることもあるし、そこから良好な人間関係が生まれることもある。本書では私は某テレビ局のギャラ未払い問題で誤報をし、坊主になったことを書いたが、謝罪をした同社取締役とはなぜか良い関係になった。この私の謝罪から5年後、なんと同氏から電話があり、ネット選挙解禁となった2013年の参議院選挙の各党・候補者のネット使用について出演してくれとオファーが来たのである。
謝罪する機会を与えられるというのは、もしかしたら時には挽回のチャンスかもしれないし、自らの評価を高めるチャンスかもしれない。謝罪せざるを得ない状況に追い込まれないのが一番だが、やる場合は適切にして、穏やかな人生を送ろうではないか。
引用:「謝罪大国ニッポン」第5章 もう謝るな p220-221
青字部の「謝罪する機会を与えられるというのは、もしかしたら時には挽回のチャンスかもしれないし、自らの評価を高めるチャンスかもしれない。」というのは、まさに「謝り上手」になるということでしょう。
5.まとめ
本書「謝罪大国ニッポン」は、
はじめに 第1章 良い謝罪、悪い謝罪
第2章 なぜ、日本で謝罪は儀式となったのか 第3章 謝罪空間 インターネット
第4章 謝罪道 第5章 もう誤るな
の5章構成です。謝罪で挽回や評価を高めるチャンスもありうると先述しましたが、そのためには「謝り上手」となる必要があります。
「謝り上手」となるという観点で本書を使うなら、
1章:芸能人や企業の有名な謝罪から、謝罪でイメージが良い例と悪い例を考える
2章:日本で失敗をしたときに、一見些細なことでも謝罪を求められる理由を学ぶ
3章:現代の謝罪の中心舞台となるネットの実態を学ぶ
4章:日本の謝罪の作法「謝罪道」についてルールを学ぶ
5章:謝らなくていい相手について学ぶ+まとめ
といった感じで読んでいけばよいと思います。とにかく、「謝り上手」になりたい社会人には実例沢山の実践的ハウツー本です。野口英世1枚で買えるリーズナブルな価格ですので読んで損はないと思います。
だからと言って、この本を読んだからと言ってわざと「謝罪」にいたるトラブルは起こすことは勧められません。トラブルによっては上手く謝罪しても取り返しのつかないことも多いです。トラブルが起きた場合の2次的被害を避けるという意味合いで謝罪を行いましょう。
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